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2009年5月 1日 (金)

新国立劇場「ムツェンスク郡のマクベス夫人」(2009/5/1)

2009年5月1日(金)18:30
新国立劇場
ショスタコーヴィチ:
ムツェンスク郡のマクベス夫人

ゴールデン・ウィークはニューヨークへの旅行を計画していました。
しかし、新型インフルエンザ騒ぎで出発当日の朝まで迷った末、苦渋の決断で旅行は中止しました。
その日のテレビのニュースによると、米国本土行きの飛行機は、いずれもキャンセルは3~4人程度とのこと。
「リスク」を「確率」×「影響度」で評価したときに、予防に気をつけていれば「確率」はそれほど高くないかもしれません。
しかし、過剰反応かもしれませんが、呼吸器系疾患で入院までした前歴のある私は「影響度」の方を無視できなかったのです。
連休明けに海外出張の予定があり、もしその出張先で発症したら…という懸念もありました。
そういうわけで、この日はメトロポリタン・オペラではなく、新国立劇場に足を運びました。 1_3  2_23_2




この日の主役は、まさにショスタコーヴィチの音楽。
演出も、演技も、舞台装置も、全て音楽の劇的な効果を高めるためのもの。
そして、作曲家に次ぐ最大の功労者は、おそらく指揮のシンケヴィチさんでしょう。
東京交響楽団は元々素晴らしいオーケストラですが、伸びやかさと劇的な迫力を感じさせるスケールの大きいサウンドを引き出していました。
オケは、弦楽器の情感のこもった美しい響きに加えて、管楽器の強奏も決して雑にならない聴いていて爽快感を感じる音。
定期演奏会並、あるいはそれ以上の好演でした。
全幕が終わった後のピットの中では、オケのメンバーから指揮者をたたえる拍手が贈られていました。

歌手では、カテリーナ役のフリーデさんが長丁場を疲れも見せずに劇的に歌いきり、存在感を示しました。
ボリス役のアレクセイエフさん、セルゲイ役のルトシュクさんも、ドラマティックな面では多少平板な感もなかったわけではありませんが、声は立派。
他の歌手やコーラスも含めて、アンサンブルとして満足できたのは、繰り返しになりますが、指揮者の力量かと思います。

演出は、英国ロイヤルオペラのプロダクションの“輸入”のようです。
音楽を邪魔しない範囲で視覚効果に訴えていて好感でした。
最初は、まるで刑務所の中のような居間や寝室で、色彩や照明も控えめで、どうなることかと思いましたが、これはカテリーナの息詰まるような閉塞感を表したものだったようです。
ボリスを毒殺した後は、間奏曲の間、部屋のリフォーム作業が舞台上で演じられ、その後の寝室はピンクっぽい艶やかな雰囲気に様変わり。
その寝室の白黒テレビには、プロレスのような画像が映し出されたりしましたが、ボリスの亡霊は、そのテレビの画面に映し出されて口を大きくあけて歌い、リアルな幽霊よりもかえって不気味。
ジノーヴィーを殺害した後の警察の場面や、結婚式の場面も色彩的な光が、邪魔にならない程度に効果的に使われ、音楽をもり立てます。
最後の流刑地へ向かう護送の場面は、暗い中にコンテナのような護送車(?)が二つ置かれた場面。
ただ、ちょっと腑に落ちなかったのは、最後のカテリーナがソニェートカを湖に突き落とし、自分も身を投げる場面。
プロンプターの前で二人で立ったまま下に少しずつ沈んでいくのはあまり劇的ではありません。
この辺の演出の意図は、ちょっとわかりませんでした。

この日は2階席左側のバルコニー席は椅子が取り払われ、そこにときどき金管奏者が出てきて演奏します。
また、ときどきは舞台上でも演奏したり、降りた幕の前で演奏したりもして、飽きさせませんでした。

第2幕が終わった後は、多少戸惑った拍手が控えめに起きただけでしたが、終演後は結構盛大な拍手。
ドラマとしては陰惨なストーリーのようですが、ショスタコーヴィチの音楽は、結構皮肉さや滑稽さも感じさせる部分もあります。
むしろ、チャイコフスキーの「スペードの女王」の方が、私にとっては「やりきれなさ」を感じるくらいです。
また、殺人や暴行のシーンがあるので衝撃的かというと、「トスカ」だって初めて観たときは、主役が3人とも死んで結構ハラハラ、ドキドキ。
あるいは「カルメン」ですら、見方によっては刺激的なストーリーかも。
あまり構えることなく楽しんだ方が良いような気もします。

ショスタコーヴィチがこのオペラに与えた音楽は魅力的です。

【指揮】ミハイル・シンケヴィチ

【演出】リチャード・ジョーンズ
【美術】ジョン・マクファーレン
【衣裳】ニッキー・ギリブランド
【照明】ミミ・ジョーダン・シェリン

【芸術監督】若杉 弘

キャスト
【ボリス・チモフェーヴィチ・イズマイロフ】ワレリー・アレクセイエフ
【ジノーヴィー・ボリゾヴィチ・イズマイロフ】内山信吾
【カテリーナ・リヴォーヴナ・イズマイロヴァ】ステファニー・フリーデ
【セルゲイ】ヴィクトール・ルトシュク
【アクシーニャ】出来田三智子
【ボロ服の男】高橋淳
【イズマイロフ家の番頭】山下浩司
【イズマイロフ家の屋敷番】今尾滋
【イズマイロフ家の第1の使用人】児玉和弘
【イズマイロフ家の第2の使用人】大槻孝志
【イズマイロフ家の第3の使用人】青地英幸
【水車屋の使用人】渥美史生
【御者】大槻孝志
【司祭】妻屋秀和
【警察署長】初鹿野剛
【警官】大久保光哉
【教師】大野光彦
【酔っ払った客】二階谷洋介
【軍曹】小林由樹
【哨兵】山下浩司
【ソニェートカ】森山京子
【年老いた囚人】ワレリー・アレクセイエフ
【女囚人】黒澤明子
【ボリスの亡霊】ワレリー・アレクセイエフ

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

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コメント

ショスタコーヴィッチの音楽が素晴らしいですね。
オペラは音楽!と強く感じる公演でした。
貴ブログを当ブログでご紹介させて頂きます。
不都合ございましたら、お手数ですが、お知らせ下さいませ。

投稿: operaview | 2009年5月 2日 (土) 08時59分

operaviewさま
御紹介いただきありがとうございます。
本当に「音楽が主役」だと感じました。
素晴らしかったです。

投稿: 稲毛海岸 | 2009年5月 2日 (土) 22時41分

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